たまきさんのあそびば

【詩】「風」2018/05/30

 
「風」
 

白い糸が絡(から)まりつくなか
息を切らせて走った
首に胸に腕に足に
無数の糸は重なり続ける
重みを増してゆく身体
ついには目も口も鼻も
白で蔽われてしまった

あの子は走るのをやめて
糸で布を織り始めた 
あの人は走るのをやめて
糸で包まれた子を産む

糸は柔らかで温かい
走らないものには
心地よい重み

それでも走った
なぜか走った
僅かな隙間から息をしながら
微かに感じる光を追って
どこかに向かって
なにかを求めて

とつぜん風が吹いた

糸がほどける
視界の先には空
足の下にも空
そして海

墜ちる身体が吹かせる風は
激しく厳しく
糸を剥ぎとる

糸がなくなった身体は軽く
風に乗って空を滑る
―世界はなんて明るく美しい!
―求めていたものはこれだった!
陽の光を全身に受けて
気がついてしまった
皴から覗く白い糸
髪から零れる白い糸
所詮白い糸に包まれ産まれた子

風は身体を滑らしながら
さらに厳しく
糸を剥ぎとる
全ての糸が剥ぎ取られたとき
身体は細かく崩れて海に散った

海底の肉片たちは
夢のなかを
いまも走り続けている
 

 

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